普段、ニュースで耳にする「ジニ係数」。通常は所得格差など、経済の不平等を測るために使われるこの指標ですが、これをプロ野球の「打席数」に応用するとチーム事情が見えてきます。
今回は、2025年シーズンのデータをもとに、12球団の「打線の固定度」をジニ係数で算出し、さらに「得点力」との関係を分析してみました。
1. 野球における「ジニ係数」とは?
まず、今回の分析におけるジニ係数の定義を解説します。
- 通常のジニ係数: 所得の格差を表す(1に近いほど一部の富裕層に富が集中)。
- 野球版ジニ係数: 「チーム内の打席配分の偏り」を表す。
つまり、以下のように解釈できます。
- 係数が高い(1に近い) \( \rightarrow\) 「打線が固定されている」
- 一部のレギュラー選手が打席の多くを占めている状態。
- 係数が低い(0に近い) \(\rightarrow\) 「打線が流動的である」
- 多くの選手がまんべんなく打席に立っている(併用、怪我人続出、日替わりオーダーなど)。
2. 12球団「打線の固定度」ランキング
まずは算出したジニ係数(打線の固定度)のランキングを見てみましょう。
| 順位 | チーム | ジニ係数 | 固定度 |
| 1 | 阪神タイガース | 0.682 | 高(固定) |
| 2 | 広島東洋カープ | 0.649 | \(\uparrow\) |
| 3 | 中日ドラゴンズ | 0.648 | | |
| 4 | 読売ジャイアンツ | 0.642 | | |
| 5 | 埼玉西武ライオンズ | 0.642 | | |
| 6 | 横浜DeNA | 0.630 | | |
| \(\dots\) | \(\dots\) | \(\dots\) | \(\dots\) |
| 11 | 北海道日本ハム | 0.579 | \(\downarrow\) |
| 12 | 福岡ソフトバンク | 0.553 | 低(流動) |
最も打線が固定されていたのは阪神タイガース(0.682)。逆に、最も多くの選手を起用していたのが福岡ソフトバンクホークス(0.553)という結果になりました。
傾向として、セ・リーグのチームの方がジニ係数が高く、打線が固定されていることがわかります。
3. 「固定=強い」とは限らない? 散布図で見る実態
しかし、「打線が固定されている」ことが必ずしも「良いこと」とは限りません。
「レギュラーが強力で固定できている」場合もあれば、「代わりの選手がいなくて固定せざるを得ない(得点力不足)」場合もあるからです。
そこで、「ジニ係数(固定度)」と「チーム総得点」の相関を散布図にして分析しました。

この図から、3つの事象が見えてきました。
① 「固定して勝つ」正攻法タイプ(阪神)
【高いジニ係数 × 高い得点力】
阪神タイガースは、最も高いジニ係数(0.682)を記録しながら、得点数も496点と上位に位置しています。
これは、「強力なレギュラー陣が確立されており、そのメンバーが年間を通して活躍した」という、チーム作りとしての理想形の一つと言えます。
② 「全員野球」の選手層タイプ(ソフトバンク・日本ハム)
【低いジニ係数 × 圧倒的な得点力】
ここが今回の分析で最も興味深いポイントです。
通常、メンバーがコロコロ変わる(ジニ係数が低い)と得点力は下がりがちです。しかし、福岡ソフトバンク(551点)と北海道日本ハム(548点)は、ジニ係数が12球団で最も低いレベルでありながら、得点力は1・2位を争っています。
これは、「打線が固定できなかった」のではなく、「誰が出ても打てる」ことを意味します。
レギュラーだけでなく控え選手のレベルも非常に高く、「選手層の厚さ」が数字にはっきりと表れています。
③ セ・リーグとパ・リーグの傾向差
散布図全体を見ると、セ・リーグ(平均的にジニ係数が高い)とパ・リーグ(平均的に得点が高い)の色の違いが見えてきます。
セ・リーグは比較的レギュラーを固定して戦う傾向があり、パ・リーグ(特に上位チーム)は豊富な戦力を柔軟に運用して得点を稼いでいる様子がうかがえます。
4. まとめ:データから見えるチームの「色」
ジニ係数を使ってプロ野球を分析することで、単なる順位表からは見えない「チームの戦い方」の違いが見えてきました。
- 阪神: レギュラーの固定化による安定した強さ。
- ソフトバンク・日本ハム: 選手層の厚さを活かした、どこからでも点が取れる強さ。
「打線を固定すべきか、流動的にすべきか」。その答えは一つではなく、チームが持つリソース(選手層)によって最適な戦略が異なることが、データから読み取れました。

コメント